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Top/Blog/2026-10-22

調べた

AIで作った選挙広告に1億3,700万ドル。ルールを作る人と、縛られる人は同じだった

2026年11月のアメリカ中間選挙を前に、AIで作った選挙広告に、すでに1億3,700万ドル(日本円で200億円超)が使われている。

前回の2024年は、5万ドルに届かなかった。2,700倍以上に膨らんだことになる。

このニュースを見て、私が気になったのは金額そのものではなかった。この広告のルールを作る人たちと、この広告を使う人たちが、ほぼ同じ人たちだ、という点だ。

11個の動画アイコンのうち、黄色い表示タグが付いているのは3個だけ。AIで作ったという表示が付いた広告が少数だったことを表している

確認できた数字

選挙広告を追跡しているウェスリアン・メディア・プロジェクトの集計(2026年10月11日時点)では、次のようになっている。

  • AIを使った選挙広告は220本・34州、支出は1億3,700万ドル超
  • 広告に「AIを使った」という表示があったのは、わずか27%
  • AIの使用表示を義務づけている州は、約30州にとどまる
  • 党派別では、共和党側が広告数の81%・支出の88%、民主党側は広告数の12%
  • 中身は、候補者が言ってもいないことを言わせたり、実際には起きていない場面を見せたりするものが多い

注意したいのは、この数字が「AIで作られたと確認できた広告」だという点だ。表示のない広告が7割以上あるので、見つけられていない分が、党派によって偏っている可能性は否定できない。党派の差の理由も、調べた範囲では書かれていなかった。数字は「確認できた範囲では」と読むのが正確だ。

別の話:ロシア発の偽動画

もう一つ、別の動きがある。ブルームバーグの調査(10月中旬)によると、ロシア系とされる「マトリョーシカ」という偽情報作戦が、民主党の候補者を狙って動いている。

  • ロバート・デ・ニーロ、ジュリア・ロバーツ、シェールといった著名人が、民主党を批判しているように見せるAI動画が出回った。ABCやCBSのロゴを偽装したものもある
  • テキサス州の上院候補ジェームズ・タラリコ氏には「アダルトサイトのモデルにお金を払った」、ジョージア州のジョン・オソフ上院議員には「税務当局に資産を隠した」という話が着せられた。どちらも、裏付ける証拠は出ていない
  • ボットのネットワークが再生数を水増ししている。投稿から1時間で最大20万回に達し、その後ぴたりと伸びが止まるという、不自然な動きだ
  • 9月10日から10月9日に見つかった動画と改ざん画像は130件
  • 投票や開票そのものへの直接的な操作の証拠は、今のところ見つかっていない

ここで、はっきり書いておきたい。前の章の広告(国内の候補者・団体によるもの)と、この偽動画(外国勢力によるもの)は、別々の出来事だ。 両者が連携しているという証拠は、見つかっていない。同じ時期に、同じ道具で、別々に起きている、というのが事実だ。

ルールは、どうなっているのか

連邦レベルでは、AIを使った選挙広告のルールは、まだ無い。

  • 選挙を担当するFEC(連邦選挙委員会)は、2024年9月に「AI専用のルールは作らない」と決めた。代わりに「既存の虚偽表示の禁止が、AIにも当てはまる」という解釈を示しただけだ。市民団体が規則づくりを求めたのは2023年。遅れは、前の政権のときから続いている
  • 議会には法案が2つある。「Protect Elections from Deceptive AI Act」(2025年に上下両院へ提出。超党派の共同提出者がいると報じられている)と、民主党のモレル議員が7月23日に出した「AI Transparency in Elections Act」。どちらも委員会から先へ進んでいない
  • 州では、約30州が選挙ディープフェイクを規制している。多くは「AIで作った」と明記させるルールだ

民主党側にも触れておく。下院民主党は、来年多数派を取り戻したら、政治広告のAI規制を進める方針だと報じられている。一部の候補は、相手の発言を捏造するディープフェイクは使わないと約束した。ただし、民主党の全国委員会が、党として禁止の方針を出した形跡は、確認できていない。

縛られる人が、ルールを作る

小槌(ルールを作る側)とメガホン(広告を使う側)の2つの円が、大きく重なっている図

法案が止まっている理由は、報じられていない。誰かが意図的に遅らせている、と言うつもりはない。

ただ、構造として、こう言える。

このルールで縛られるのは、選挙に出る候補者、政党、支援団体だ。そして、ルールを作る議会は、その当事者たちでできている。自分たちを縛るルールを、縛られる当人たちが作る。 急いで作る動機が、そもそも生まれにくい形になっている。

さらに、ルールが無いあいだは、使った側が得をして、使わなかった側が損をする。「自分だけやめれば、相手が先に行く」という構図は、10月8日に書いた「AIからSIへ」の記事で触れた、国家間のAI競争と同じものだ。企業が、ルールを作る側に回ろうとする問題は、以前の記事でも書いた。AIの周りでは、ルールを決める側と、ルールに縛られる側が重なっている場面が、あちこちにある。

うちではどうするか

私たちに、選挙のルールを変える力はない。けれど、「ルールが追いつくまで待つ」のではなく、「自分たちで先に決めておく」ことはできる。

当社のブログのイラストは、AIで作っている。この記事のイラストも、そうだ。AIで作ったものは、そう書く。法律に書かれる前から、自分たちで決めておく。それくらいのことなら、小さな会社にもできる。


出典:ウェスリアン・メディア・プロジェクトの集計(Gizmodo・Fortune・Truthout報道、2026年10月)/Bloomberg・Japan Times・France 24(ロシア発の偽動画、2026年9〜10月)/Axios(民主党の方針、2026年5月)/Congress.gov(S.1213・H.R.5272・H.R.9922)/The Conference Board(FEC解釈規則)/共同通信(2026年10月17日)

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