退職代行の事業者の、およそ4社に1社が、この1年でサービスを止めたかもしれない。帝国データバンクが9月23日に発表した調査は、そう伝えている。
ただし、これは「停止の可能性」だ。ホームページが見られないなど、通常の方法でサービスの継続を確認できなかった事業者の数で、廃業が確定した数ではない。 2025年10月時点で実態が確認できた主要52事業者のうち、14事業者が該当した。
この記事を読んで、私が気になったのは、事業者の数ではなかった。使った人は、どんな理由で頼んでいたのか。 それを調べてみた。

確認できた事実:事業者の側
- 主要52事業者のうち14事業者が、2026年9月までの1年間で「サービス停止の可能性」(帝国データバンク)。うち10事業者は民間事業者
- 平均料金は、約2.8万円から約2.7万円へ下がった。新規参入と、法律事務所の参入で、価格競争が進んでいる
- 「スマートヤメマス」の運営会社は、2026年3月に破産した
- 大手「モームリ」の運営会社は、弁護士法違反の疑いで捜索を受け、2026年2月に代表者らが逮捕・起訴されたと報じられている
- 企業側の見方も変わっている。東京商工リサーチの調査(2026年4月)では、弁護士や労働組合以外の業者から連絡が来ても、「非弁行為の可能性があるので取り合わない」企業が30.4%。退職代行の利用歴が分かれば「採用しない」企業が26.0%
確認できた事実:使った人の側
パーソル総合研究所の調査(2025年8〜9月)では、離職者の5.1%、約20人に1人が、退職代行を使っていた。使った理由は、次のとおりだった(利用者のみ・複数回答)。
- すぐにでも退職したかったから 42.3%
- 上司への恐怖心があった 28.8%
- 体調不良・精神的に辛かったから 25.0%
- 職場の人たちと関わりたくなかったから 23.1%
- 申し出たとしても、退職を認めてもらえなさそうだった 23.1%
- 交渉や退職の手続き・やり取りをするのが面倒だから 21.2%
- 上司への申し訳なさがあった 19.2%
- 退職を伝えると報復や嫌がらせをされそうだから 7.7%
- 退職を申し出たが、認めてもらえなかった 7.7%
目立つのは、実際に「認めてもらえなかった」人は7.7%と、少数だったことだ。「認めてもらえなさそう」と感じた人(23.1%)との間には、差がある。
別の数字もある。モームリの運営会社が、利用者51,935人について発表したデータ(2026年10月公表)では、「上司から退職を止められる」が10.8%、「会社に非はなく自己都合」が17.2%、「上司から各種ハラスメントを受けている」が14.2%だった(複数回答)。これは、運営会社による自社の利用者の集計で、退職代行を使った人全体を代表するものではない。
分かっていないこと

いちばん多かった「すぐにでも退職したかった」は、なぜ、すぐに辞めたかったのかが、分からない。 調査は、そこまで聞いていない。つまり、これは理由というより、気持ちの強さを表す項目だ。
調べた範囲では、この項目を、さらに細かく分けた調査は見つからなかった。別の調査には、「退職を伝えた際のパワハラ・嫌がらせへの不安」(34%)や、「直接会社に伝えることへの抵抗」(24%)が上位に出るものもある。ただ、それは別の調査で、42.3%の内訳ではない。
読むときの注意が3つある。
- パーソル総研の調査で、退職代行の利用者は52人。小さい人数なので、数字の誤差は大きい。傾向を見る程度にとどめる
- 利用理由は複数回答なので、合計は100%にならない
- 運営会社のデータは、自己申告の集計である
私の考え
ここからは、事実ではなく、私の考えだ。
退職代行は、本当に追い込まれた人のための、最後のとりでであってほしい。そういうサービスは、成長産業として成り立ってはいけないと私は思う。使う人が少ないほうが、良いサービスだからだ。
この見方は、ITmedia ビジネスオンラインの解説記事(筆者:横山信弘氏)にも通じる。筆者は、セーフティネットを事業として成長させるには、利用者を増やさなければならず、それは「本来使わなくてもよい人にまで使ってもらうこと」になる、と書いている。ただ、これは筆者の見立てで、調査で確かめられた事実ではない。
調査の数字は、きれいに分かれていない。「面倒だから」は21.2%、「関わりたくなかった」は23.1%いる。一方で、「上司への恐怖心」「体調不良」「報復への不安」も、確かにある。上司からハラスメントを受けた割合は、利用者で42.3%、一般の離職者で34.9%(いずれも調査の回答者)で、差はあるが、一般の離職者にも少なくない。
もうひとつ、引っかかる点がある。「利用歴が分かれば採用しない」企業が26.0%あることは、気軽に使う人を減らすブレーキになるかもしれない。しかし、その数字は、本当に追い込まれて使った人にも、同じように及ぶ。最も守られるべき人を不利にする仕組みを、良いものとは言えない。
うちではどうするか
私たちは、AI導入を手伝う会社だ。この記事で見えた構造は、他人事ではない。AI導入支援も、いま参入する会社が増えている分野だ。需要のないところに、需要を作ってはいけない。 そのために、当社は次のことを決めている。
1. 入れないほうがよいときは、入れないと言う。
最初に確かめるのは、3つだ。繰り返す業務か。記録が残るか。人が最後に確認できるか。満たさない業務は、導入をおすすめしない。
2. 導入の前に、「AIに任せる範囲」と「人が確認する範囲」を決める。
全部をAIに任せる形では、お引き受けしない。
3. 仕組みで直せる負担だけを、手伝う。
繰り返しの作業、特定の人にしか分からない業務、引き継ぎの手間。当社は、自社のスーツケース修理店で、画面と声を記録するだけで業務の記録を作る「業務記録キット」を実際に動かしている。こうした負担は、AIで軽くできる余地がある。
一方で、AIで直せないものもある。 上司と部下の関係だ。パーソル総研の調査で、利用者の71.2%が、直属の上司との関係に不満を挙げていた。ここは、AIでも、外部の会社でも解決できない。日ごろから、部下が自分の口で「辞めます」と言える関係を作れているか。それは、経営者と管理職の仕事だ。
「AIで職場を良くします」とは、言わない。言えるのは、仕組みで直せる負担を、一緒に減らすことまでだ。
出典:帝国データバンク(2026年9月23日、HRzine・Advance掲載)/東京商工リサーチ(2026年4月、企業向けアンケート)/パーソル総合研究所「離職の変化と退職代行に関する定量調査」(2025年12月2日公表、n=1,829のうち退職代行利用者52人)/アルバトロス(モームリ運営会社)の利用者データ開示(2026年10月)/アイディエーション「退職代行サービスに関する調査」(2025年5月)/ITmedia ビジネスオンライン(2026年10月25日)