2026年9月24日、トランプ米大統領と習近平国家主席は、AIのリスクについて話し合う窓口を作ることで一致した。
それから2週間もたたない10月16日、中国政府は、自国のAI技術23件を輸出管理の対象にする草案を発表した。
このふたつを並べて見たとき、私は「どちらが本音なのか」と考えかけて、やめた。どちらも本当で、同時に進んでいる。 それが、いまの米中のAIの姿だと思ったからだ。

確認できた事実:中国の草案
10月16日、中国の商務省と科学技術省が発表した草案の内容は、次のとおりだ。
- AI関連の23技術を、輸出管理の対象に加える。大規模なAIモデルの中身(重みやソースコード)、AIエージェント、AIチップの設計、計算クラスターなどが含まれる
- 大規模モデルは「パラメータ数が2兆以上、または性能と安全性の試験で世界の上位10位に入るもの」が対象
- 輸出する前の事前登録は、暫定ルールとして同じ16日から、すでに始まっている
- オープンソースの公開と、アプリやAPIでの海外向けの提供は、対象外
- 意見募集は11月15日まで。つまり、草案はまだ確定していない
- 当局は「誤用や乱用を防ぎ、AIを人の管理下に置くため」と説明し、特定の国や企業を狙うものではないとしている
草案にモデル名は書かれていない。ただ、BloombergとAPは、月之暗面(Moonshot AI)のKimi K3とアリババのQwen3.8-Maxが、規模の基準を超えると報じている。
米国側は、先に止めていた
チップの側では、米国が先に動いていた。
- 米国は、エヌビディアの高性能チップの対中輸出を制限してきた。2026年1月には、H200などを条件つきで認める方針に変えたが、7月に商務省の次官は「輸出は今のところごくわずか」と述べている
- 中国側は、国産チップの採用を促している。IDCの分析(ロイター報道、10月13日)では、2026年上半期の中国のAIチップ市場で、エヌビディアのシェアは34%、ファーウェイは28%。差は6ポイントまで縮まった
- 規制の抜け道も報じられている。密輸の疑い(Bloomberg)や、東南アジアのデータセンターを経由した利用(CNBC)だ
米国は「チップ」を止め、中国は「モデルと設計技術」に鍵をかけようとしている。どちらも、AIを動かす材料を、自国の手元に置く方向だ。
同じ時期に、対話もしていた

9月24日の米中首脳会談で、決まったことは次のとおりだ。
- AIの事故やリスクについて話し合う二国間の連絡窓口を設ける。ホワイトハウスは「超知能(SI)の事故に関する窓口」と呼んだ
- 「米中超知能対話」を新たに設け、次回は11月までに開く
- 習主席は「AIは常に人の管理下に置くべきだ」と述べた
ただし、画期的な合意があったわけではない。 決まったのは窓口と対話の場で、規制の中身ではない。しかもトランプ氏は会談後に、AIの取り組みを中国と一つにまとめることを断った。「我々が大きくリードしている」「AI競争のブレーキは踏まない」という趣旨の発言だ。
呼び名も食い違っている。ホワイトハウスは「超知能」を使い、中国政府の文書は「人工知能」のままだった。
読み取れること
ここからは、事実ではなく、私の読みだ。
米中は、AIの「主権」をめぐって競っている。誰が、チップとモデルを握るのか。そして同時に、競争が制御不能な衝突になる前に、止めるための窓口も持っている。 窓口は、仲直りのためではなく、ぶつかりすぎないための安全弁に近い。
中国が草案を出した理由は、書かれていない。公式の説明は「誤用の防止」だ。ほかの見方もできるが、それを裏付ける材料は、今回は見つけられなかった。動機は、断定しない。
うちではどうするか
私たちは小さな会社だ。米中の規制を動かす力は、もちろんない。けれど、この動きは他人事でもない。
使っているAIが、どの国の会社のものか。その国の規制で、ある日、使えなくなったり、条件が変わったりしないか。今回の草案が、日本の利用者にどう影響するかは、現時点では分からない。オープンソースやAPIは対象外とされているが、確定していない。
だから、お客様のAI導入をお手伝いするときは、ひとつのAIに全部を預けない。入れ替えられる形で作っておく。規制がどう決まっても、困らないようにするためだ。
出典:TNW・Bloomberg・AP(中国の草案、2026年10月16日)/Bloomberg(密輸、2026年10月1日)/CNBC(2026年8月19日)/ロイター報道・IDC(2026年10月13日)/CBS News・Al Jazeera・Axios・AOL(米中首脳会談、2026年9月24〜26日)/ホワイトハウス発表