9月9日に配信された、テレビ朝日の記事を読んだ。
見出しは「AIでなくなる仕事」ビル・ゲイツが明言 いま始まる“人間の仕事”争奪戦。
記事が言っていたこと
- ゲイツ氏が自身のサイトで論考を公開し、AIで多くの仕事が永久に消えると警告した
- 最初に消えるのは、若者がキャリアを始める「エントリーレベル」の仕事。営業、カスタマーサポート、ソフトウェア開発、法律関連など
- ロボットが安くなり、2030年ごろには建設や接客でも人と仕事を取り合う
- 対策として「ロボット税」と「人間専用の職業」を提案している
読み終えたときの印象は、「AIを前向きに語ってきた人が、一転して警鐘を鳴らした」だった。記事自身もそう書いている。
原文を読むと、話が半分だった
気になって、元の論考をAIに読ませ、記事との差を出させた。
論考は8月26日に公開された英文で、CNNなどの報道では約6,000語ある(原文はこちら)。
差は、大きく3つあった。
1. 危険は「仕事」だけではなかった
論考が挙げる危険は3つある。
①多くの仕事が永久に消える。②AIが、人(そしてAI自身)が害をなす力を増やす。③子どもの発達を止め、人間関係を置き換える。
記事が伝えたのは①だけだった。
②の詐欺・偽情報・サイバー攻撃も、③の「常にそばにいて、決して怒らないAIの話し相手」に慣れた子どもが、人と関わって学ぶはずのことを学べなくなる懸念も、記事にはまったく出てこない。
2. 「一転して反対に回った」わけではなかった
論考の中で、ゲイツ氏はこう書いている。
If the world takes the right steps AI will be a force for good and leave everyone better off.
世界が正しい手を打てば、AIは善の力となり、すべての人の暮らしを良くする。(訳はAI)
「AIは史上最大の平等化装置にも、最悪の不公正の源にもなる」と言い、止めるのではなく、税制や社会保障や教育をAIの速さに合わせて作り替えろ、というのが本筋だ。
新薬、クリーンエネルギー、地方の病院での診断支援、小さな事業者が大企業並みの能力を使える環境。恩恵の側も、原文には具体的に書いてある。
3. 「人間専用の職業」は、予測ではなく提案だった
記事の見出しは、「AIでなくなる仕事」を“明言”したと読める。
だが原文の「Human Reserved」は、「AIにできない仕事」の予測ではない。AIでも技術的にはできるが、社会として人に残すと決める領域を作ろう、という提案だ。
例に挙がるのは、高齢者の介護、重い病気を本人に告げる仕事、教育とメンタルヘルス(人が責任者で、AIは補助)。
しかも日本を名指しして、こう書いている。
a country like Japan, which has a shrinking workforce and not enough young people to care for the old, may welcome a caregiving robot.
働き手が減り、高齢者を介護する若者が足りない日本のような国は、介護ロボットを歓迎するかもしれない。(訳はAI)
つまり、何を人に残すかは国ごとに決める話で、世界共通の「なくなる仕事リスト」ではない。
税の話も同じで、原文は「AIのトークンとロボットに課税し、再教育と社会保障に回す」。記事の「ロボット税」より一段具体的だ。
論考の最後は、4つの問いで終わる。富も影響力もない人にどう恩恵を届けるか。仕事を失った人と地域をどう支えるか。公共機関はどう変わるべきか。人間らしさをどう守るか。
答えは書いていない。AI企業に任せず、選挙で選ばれた人、教育者、医療従事者、地域の代表を含めた公の場で決めるべきだ、と結んでいる。
考えたこと
記事は、嘘を書いていない。書いてあることは、すべて原文にある。
ただ、6,000語のうち「仕事が消える」の部分だけを切り出し、「一転」「明言」「争奪戦」という言葉で組み直すと、読者に残るのは「ゲイツもAIを恐れ始めた」という像になる。
AIへのゆがんだイメージが植え付けられていく、典型的な形だと思った。記事と本質の差そのものが、私には一番面白かった。
うちではどうするか
AIの記事は、見出しで判断しない。原文が公開されているものは原文まで開き、AIに差を出させてから考える。
この一本でも、報道だけを読んでいたら「AIは危ない、人の仕事を守れ」で止まっていた。原文まで読むと「速さに合わせて、仕組みを作り替えろ」になる。
私たちが向かうのは、後者だ。